この恋の先に、一体、何があるって言うんだろう。
わたしには、それが見えずにいた。
彼との時間は楽しかった。どんな些細なことでも笑いあえたし、二人の間にはなんの問題もなかった。
彼は優しく、頼りがいがあり、仕事もきっちり出来る人で、申し分のない男だった。
わたし達は、言うまでもなく「順調」だった。
でも、「順調」という言葉は、そもそも何が「順調」だというのだろう。
まるで二人の関係が、すでに行き先が決まっている旅のようで、そうしていずれ、決まり切った過程を経て、行き着くところへ行き着くとでも言うような...。その道すがら、わたし達は「順調」だというのだ。
まるで、わたしが、彼の運命を縛っているようにすら感じてしまうその「順調」と言う言葉。
進めるべき所に、進めているのは彼?それとも、やはりわたしなのだろうか。
ときどき、わたしは思うのだ。
彼は、この、私達の関係を、どのように考えているのだろう、と。
彼は、わたしの前ではいつも饒舌に、そして時々冗談を交えながら、陽気に振る舞ってはくれているけれど、その笑顔の下の本心には、何か、全く違うものが隠れているのではないだろうか。
それを考え始めると、怖くなる。
彼が笑えば笑うほど、その表情の下にもっと暗い何かが立ちこめているのが見えてしまいそうで、わたしの笑顔は硬くなる。
実際には、それは心配のしすぎなのかも知れない。
彼はいい人だし、これまで、そんな暗い兆候なんか、わたしの前では一度だって、見せたことはなかったのだ。
ただ、どうしてなのだろう。
彼が笑うと、わたしは不安になる。
幸せにならなければいけない場面で、わたしは思わず、尻込みしてしまうのだ。
いま、彼が朝のトーストを用意してくれている、ほんの僅かな時間に、
わたしはこの文章を書いている。
昨日も大分遅くまで仕事をしてしまったから、明るい窓から差し込む朝の光が、目に灼けるように眩しい。
カーテンは彼の好み。うすく、透き通るようなブルー。
庭のコスモスの淡い赤が、その色によく映えるように、彼は計算していたらしい。
わたしにはもったいないぐらい、出来る人だ。
昔、わたしが彼に、今のような不安をぶつけた時、彼はわたしをじっと見て、
僕は君を必要としている。
と、はっきり言ってくれた。
わたしは、その言葉を信じている。
なんの根拠もない言葉かも知れないけれど、他の誰でもない、
彼の言葉だし、わたしは信じてみたい。
でも、同時にわたしには分からないのだ。
一体、彼のどこに、わたしが必要だと、いうのだろう。
彼はあまりに、よくできた人なのだ。
わたしなどがいなくても、おそらく彼は十分にやっていけるだろう。
それなのに、「わたしが必要」とは?
たぶんわたしが恐れているのは、その不可解さなのだ。
かれが、わたしの何を必要としているかが分からないから、わたしは始終、彼を恐れている。
もしかして、彼の意に沿わない何かを、わたしはしてしまうんじゃないか。
あるいは、わたしの唯一、彼が必要としている「よい点」を、わたしは何時しか、失ってしまうのではないか。
そうなってしまうことを、わたしは恐れている。
彼が、帰ってくる。
今日も、優しく笑っている。
わたしも笑い返そうと思う。
今日も、綱渡りの
甘い一日
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